表示を補正しても回路への負荷は残る
一言でいうと
プローブの倍率を合わせることは、画面の電圧を直すことであり、プローブの負荷を減らすことは、測定対象の回路を、より変えないようにすることです。2つの問題は別のものなので、別々に検証しなければなりません。
なぜ必要なのか
温室センサーのフィルターを選びました。ところが、回路を確認しようとプローブをつなぐと、速い変化が丸くなり、ピークが変わります。誰かは、プローブが10Xだから、画面の値に10を掛ければ解決すると言います。本当に元の回路が戻ってくるのでしょうか。
今回は、3つの値を同時に記録します。プローブをつないでいない基準回路のref、実際にプローブがつながったノードのtip、プローブを通って計測器の入力に届いたmeterです。画面に当たるdisplayは、meterに倍率を適用した値です。倍率が正確でも、tip自体がrefと違っていれば、測定は回路に影響を与えたことになります。
この実験は、1Vの低電圧の理想モデルです。実物のプローブやオシロスコープに高電圧はつなぎません。製品の購入の推奨や、安全定格の検証でもありません。電源・帯域幅・スルーレート・ノイズ・グランドリードのインダクターンス・ケーブルの伝送線路効果は、今後別に検証する項目です。
どう動くのか
入力抵抗が大きいというだけでは足りない
測定入力は、無限の抵抗ではありません。入力抵抗は、DCでも電流を引き込み、入力容量は、速い変化でより大きな影響を与えます。Tektronixのプローブ入門書は、抵抗性・容量性の負荷と、補償の調整を、別々に説明しています。今回の授業は、この区別を独自の回路で再現します。
ソースの直列抵抗は10kΩ、DUTは100kΩと20pFの並列です。DUTは、測定対象の回路という意味です。別の同じソース抵抗の枝に、同じDUTを付けて、refを作ります。2つの枝の前の理想電圧源だけを共有するので、tipにつないだプローブが、refに負荷としてかかることはありません。
比較する1Xモデルは1MΩ||100pF、アクティブ入力モデルは1MΩ||1pFです。アクティブ入力の出力バッファーは、理想的です。2つのモデルの入力抵抗は同じですが、容量が違うので、時間応答の歪みは大きく異なります。この数値は、特定の製品の仕様ではなく、比較のために宣言した実験条件です。
10X補償の2つの時定数
10Xは、tipとmeterの間に、9MΩと補償コンデンサCpを並列に置きます。meterから接地へは、1MΩ||90pFがあります。DCでは、コンデンサは開放になるので、9MΩと1MΩの分圧で、meterがtipの1/10になります。しかし、周波数が上がると、2つのコンデンサも分圧に参加します。
2つの並列インピーダンスの時定数を合わせるには、9MΩ×Cp=1MΩ×90pFでなければなりません。したがって、このモデルの適切なCpは、10pFです。このとき、周波数に関係なく、meter/tip=0.1で、display=10×meterがtipを再現します。Cpが5pFなら高周波側の表示が小さくなり、20pFなら大きくなります。DC分圧だけを見て、補償が合っていると判断すると、この差を見逃します。
補償が合っていても、DUTはプローブ入力を見ています。正しく補償した2つのコンデンサの直列等価は9pFで、DC抵抗は10MΩです。既存のDUTの20pFの隣に、無視できない容量が追加されるのです。数字に10を掛ける演算は、回路からこのコンデンサを取り外しません。
インピーダンスで3ノードのモデルを作る
s=j2πf、Yd=1/100kΩ+s×20pFと置くと、無負荷の基準の伝達関数は、Href=1/(1+RsYd)です。1Xやアクティブ入力は、Yp=1/1MΩ+sCpを加えて、Htip=1/(1+Rs(Yd+Yp))で計算します。理想バッファーなので、この2種類のHmeterは、Htipと同じです。
10Xでは、Za=1/(1/9MΩ+sCp)、Zb=1/(1/1MΩ+s×90pF)です。DUTが見る追加のアドミタンスは1/(Za+Zb)なので、Htip=1/(1+Rs(Yd+1/(Za+Zb)))です。計測器の入力は、Hmeter=Htip×Zb/(Za+Zb)です。3つの値を別々に返さなければ、後でどの地点でなぜ歪んだのかを説明できません。
実際のACファイルには、入力まで含めて、4つの複素電圧が入っています。最初の列の周波数の後に、各電圧の実部・虚部が付いて、合計9列です。AC入力は、位相17度と振幅0.5・1・2Vを使うので、元の電圧を複素入力で割らなければ、上の式と比べられません。入力が1Vのときに、大きさだけがたまたま合う実装では、十分ではありません。
大きさの誤差と複素誤差は別
測定チェーンの誤差は|Hdisplay/Htip−1|、回路の負荷の誤差は|Htip/Href−1|と決めます。これらは、複素比から1を引いた大きさです。|Htip/Href|−1の絶対値に置き換えると、位相の差を捨ててしまいます。大きさがちょうど1でも、位相が回った信号は、元の信号と同じではありません。
100kHzで、事前の実験から得た比較です。理論・シミュレーターの結果であり、実物の測定値ではありません。
| 条件 | 表示/負荷ノードの大きさ | 表示/無負荷ノードの大きさ | 負荷の位相 |
|---|---|---|---|
| 1X | 1.000 | 約0.825 | 約−27.67度 |
| 10X、補償5pF | 約0.527 | 約0.524 | 約−1.52度 |
| 10X、補償10pF | 1.000 | 約0.992 | 約−2.88度 |
| 10X、補償20pF | 約1.818 | 約1.790 | 約−5.21度 |
| アクティブ入力の理想モデル | 1.000 | 約0.990 | 約−0.26度 |
表示の大きさだけを見ると、補償した10Xのほうが、アクティブ入力より、少しだけ元の大きさに近くなります。しかし、位相まで含めると、判断が変わります。そのため、ラボは、100kHzで、チェーンの複素誤差≤0.01、負荷の複素誤差≤0.02を、別々に求めます。このしきい値は、実験の検証契約であり、普遍的な業界の合格基準ではありません。
ステップ波形と計算の収束も確認する
入力は、1µsまで0V、次の5nsで1Vに上昇し、50µsまで維持されます。上昇完了の1.005µsから、10ns間隔の2,000個の時刻で、ref・tip・displayを線形補間します。表示と基準の最大の電圧差は、10Xの補償10pFでも約0.124V、アクティブ入力モデルでは約0.019Vです。速い過渡状態は、100kHzの1点とは別の情報を与えます。
ラボは、この観測区間で、表示/基準の最大差≤0.03Vも求めます。無負荷の基準回路は、誤差が0ですが、プローブではないので、選択の対象から除外します。比較用の対照群と、実際の選択肢を区別しなければ、当然、対照群が常に勝って、誤った結論になります。
計算間隔と観測間隔は、別です。計算の最大間隔1.25nsと0.625nsを使い、同じ観測時刻で、もう一度補間します。3つのノードすべてで、2つの実行の最大の差が10µV以下かどうかを確認します。表示電圧だけを確認すると、基準回路の誤差を見逃すことがあります。すべてを比べる過程で、以前の事前実験の狭い検査では十分でなかったことも、明らかになりました。
現場での姿
Keysightの補正の解説は、接続されたプローブ入力の信号を再現することと、プローブがないときの信号を推定することを、区別しています。前者の補正だけでは、負荷効果は取り除かれません。今回のラボの倍率補正は、接続されたtipを再現する水準であり、ソフトウェアで推定した信号を、物理的な回路自体が復元された証拠として使いません。
NXPのアナログ検証職の、ベンチデバッグ・Pythonによる自動化・検証計画・データ分析の要求に合わせて、元の回路、入力設定、波形、判定を、一緒に保存します。このラボだけで、実物の計測器の運用やPVT検証の能力をすべて証明するわけではありません。
次のラボですること
設定の検証から、元のファイルのパース、複素応答、インピーダンスモデル、ステップの補間、要求の判定、分析レポート、条件比較CLIまで、8つのステップを書きます。すべての条件と、2つの計算精度を先に残し、どの要求が失敗したかを、レポートで説明します。補償・負荷・収束のうちの1つを隠して、成功した候補を作ることはしません。